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ぐしゃりと中身が飛び出す様は余り見たくはないのだが、命がかかっている。
武蔵はその右足をやけくそ気味に持ち上げた。
と、次の瞬間。
「――――っ!!!」
バササと飛び立つ黒い物体。
目の前に両手を広げて向かって来たそれに、驚いた武蔵は声にならない悲鳴をあげ気を――失った。
「おわっと」
彼方へ飛んでいったゴキブリに安堵のため息をつくと同時に、倒れかかってきた武蔵を支える花子。
「だ、大丈夫!?武蔵?武蔵?!」
もちろん返事は返らない。
すっかり正気をとりもどした花子は、その様子を見つめて、やれやれというように肩をすくめた。
「……ほんっとヘタレだな、こいつ」
――――――――
「んっ…」
と、呻く声が膝の上の武蔵の口から漏れる。
花子は武蔵のくせ毛を撫でていた手をぴたりと止めた。
「武蔵?起きたか…?」
長い前髪の下で、瞼が奮え、重たげに開く。
「花…ちゃ…?」
「ああ、そうだ。お前が気絶してる間に、真っ暗になったぞ」
「そうでしたか…すみません。暇でしたでしょう?」
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