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しばらく呆けたような視線を受けていた花子は、再び居心地が悪くなり、ばつが悪そうにポケットの携帯へと視線を注ぐ。
ああ、誰か今すぐ電話かけておくれ。
穴があったら入りたい。
そんな気分だ。
「……じゃあ」
「ふぁいっ!」
とても小さな声だった。
それでも混乱のただ中にいる花子を驚かすには十分で、肩を大きく震わせて武蔵へと目を見張る。
「な、何!?」
平静を装おうと勤めて笑みを浮かべるが、引き攣ってはいないだろうか。
そんな花子の心配をよそに、武蔵はマイペースにいつものような気の抜けた笑みを零した。
「じゃあ、ちょっと貰おうかな」
「へ?」
「カレーパン」
くれるんでしょ?と小首を傾ぐ武蔵に、胸がトキンと高鳴るのを感じた。
「あ、う、うん、どうぞ」
慌てて視線をそらし、ドギマギしながら差し出す。
「いただきます」
武蔵は厳粛に手を合わせ、花子の手から、潰れたそれを受け取る。
パクリと一口。
「ん、おいしいです」
「まぁね、お気に入りだからね」
武蔵の反応に満足げに頷いた花子も、遅めの夕飯を取ることにする。
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