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材料倉庫
ここは、都内にしては田圃に囲まれた、ある美大の材料倉庫。
材料とは名のつくばかりで、かつての卒業生たちが学校に置き去りにしていった課題の作品たちが、何年もかけて埃を厚く積もらせる場所だ。
私は、あの造り手がここを去ってから、もう何百人もの生徒たちを見下ろしてきた。
こんな偏狭の地でも、幾年かに一度の年末なんかに、大掃除をされることもあるのだが、そのたび私だけはなぜか捨てられずに、こうして残っているのだ。それはおそらく、私が"石膏像"という重い石像であるのに、幾重にも高く積まれた箱の上に置いてあることや、剥き出した顔身体のそこここに黒く煤をかぶっていたり、蜘蛛の巣をひっかけていて、もはや原型のわからない---であっても人型であることはわかる---形相に成り果てていることから、一種の怪談のように扱われていることも、生徒たちの目から疎遠にされている理由なのだろう。
近頃数年ほどは、顔に厚く層をかけたほこりで、倉庫内の様子も窺いにくくなっていた。
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