材料倉庫

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 つめたく、新鮮な空気が鼻先をかすめた。  続けてぺたぺたとゴム草履のような足音がひとつ、倉庫内に入り込んだようだった。  ずっとこの倉庫の中にいて、時間感覚は麻痺していたが、生徒達の喧噪がないところから今は夜なのだろう。課題の提出期限に追われて残っている生徒が、なにかいい材料はないかと物色しにきたというところだろうか。足音はゆっくりと倉庫内をぐるり一周し、何度か行ったり来たりしていたが、やがてひとつの溜息と共に、私の近くの棚へ腰を降ろしたようだった。 「ふう。」  まだ若く、低い男の声はさぞ疲れたように響いた。  埃の積もった目をこらして窺い見ると、体格のがっしりとした背中が見える。私は数年前にこの倉庫へよく出入りしていた、名前も知らなかった生徒を思い出す。すこしだけ面影が重なった。  視線を感じたのか、突然その男はこちらを振り向いた。視線が合ってしまった(といっても私はただの石膏像なのだから、表情が変わるだとか、目が動くだとか、そういったことはない)ことで私がすこし驚いていると、その男は興味を示し手近な台に立ち上がって私を見た。
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