材料倉庫

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「無気味な像だなオイ。」  そう言って彼は私の頭に積もった埃を少し乱暴に払い落とす。顔の、堀の隙間や鼻筋の下にあるすすまで指で払うと、私の視界はようやっとクリアになって、その男の顔と暗闇の中相見えた。  男は所謂"ガテン系"といった類で、美大のキャンパスより工事現場の方がずっと似合いそうだった。無精髭を生やしていたし、ぼさぼさに伸びた髪を薄い灰色に脱色していたこともあって、声の割にはだいぶ老けて見えた。  キッと鋭い意志の強そうな目元と私の虚ろな(これは製作者の作風なのだ。)目が合って、男は数秒間じっと私の顔の造りを見物していた。  時間が、突然止まったようだ。私は蛇に睨まれたようになってしまった。(といっても、もとから動かないのだが。)  半開きになった倉庫の扉を、警備員が覗きこみ懐中電灯で照らして、彼ははじかれたように台を降り倉庫の外へと駆けていった。重い扉がゆっくりと閉まり、空気が落ち着く頃私はやっと彼の呪縛からとけて、内心大きく溜息を吐く。  形容しようのない呪いにかかったようだった。彼の視線に、恐怖だか、狂気だか、そんなものを感じて、よもや思考さえ停止した。
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