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そう言うやいなや、藤歳は荷物を抱えたまま雛菊の後をもうスピードで追い掛けたのだった。
そして――
その場に残された鈴蘭は、立ち上がると目を閉じて本日何度目かもう分からなくなった溜め息をこぼすのだった。
瞼をゆっくり上げると考え込む。
暫くの間、鈴蘭の周りには静寂が続いた。
「【私を忘れないで】…か」
パシャ
ぽつり と呟いた後にシャッター音がし、後ろを振り向いた鈴蘭。
「すまんすまん 驚かせちゃったな 鈴ちゃん♪」
振り向いた先には携帯片手に軽い口調で謝ってくる黒髪の青年がいた。
「生徒会長… どうしたんですか? 園芸部に用でも?」
「あー違う 違う 生徒会室の窓からちょーうど、美女2人が花と戯れてる場面が見えたから、俺も息抜きに混ぜてもらおうかと思って」
そう自分の後ろにある校舎3階を指差し、説明してくる 【生徒会会長 桃城 龍馬‐ももしろ たつま‐】
「残念ながらお目当ての美女はここにはいないよ 雛なら今頃、藤に追われて逃げてる最中だから」
「なーに言ってんの! 美女ならここにいるじゃないか 憂いを帯びた表情の鈴ちゃん!その瞳で見つめるのは花… いいね~ 桜小路ファン以外にも売れるな こりゃ」
桃城は顎に手を添え、さっき携帯で撮った写真を真剣に見てうんうん一人納得している。
「…訳わからない事言わないで そんな表情してないし花なんか見てない」
鈴蘭は桃城から目を逸らし地面を見つめる。
そんな鈴蘭の様子に、龍馬は躊躇いながらも口を開いた。
「…少しぐらい自分に自信持ったってバチは当たらないと思うぜ?」
地面から視線を龍馬に移す、
「人を羨むのは誰にだってあることだ 恥ずべき行為じゃない でも、そこで羨みから嫉みに変わるのは別だ だって筋違いだろ?」
「自分にしかないものを見ようともしないで自分にはないものを見ようとする …嫉むよりもまず〝自分を見つめ直す〟ことの方が大切だ」
「〝自分を見つめ直す〟… そう、だよね…あたし全然自分が分からないもの…」
俯きがちの鈴蘭に、桃城はそっと近寄り頭を撫でた。
「鈴ちゃんなら大丈夫だよ 焦らず肩の力を抜こう まだまだ未来(さき)は長いんだから 君の春日への〝秘めた恋″も」
その言葉に、鈴蘭は真っ赤になった顔を勢いよく上げて口を金魚のようにパクパクさせた。
「な、な、ななな何それ!?」
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