7287人が本棚に入れています
本棚に追加
めったに行かないスーパーだから、浩人はこの時間が実は一番混み合っていることなど、全く分かっていなかった。
主婦の圧倒的なパワーに押され、夕食のメニューを決めるところではなかった浩人は、あてもなくレトルト食品の売場をさまよっていた。
「あれ、米沢くん…?」
浩人に声をかけてきたのは、同じ大学の高松美樹だった。
「ああ…。こんちは」
バイト先の同僚以外の女性との会話は、久しぶりだった。買い物カゴを手にした自分の姿が滑稽に思えた浩人は、落ち着かない面持ちだった。
「晩ごはんの買い出し?」
「ん、あぁ…」
「ちゃんと自炊してんだあ。エラいねっ」
「そっかぁ…?」
「今日は何を作るの?」
あまりにもレパートリーの少ない浩人は答えに窮し、あたりを見回した。とっさに、美樹の背後にあったパッケージが目に入る。
「えっと…寄せ鍋でもしようかなって」
最初のコメントを投稿しよう!