タカシ

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   2月初旬。裕吾は初めてのアパート生活への期待に、胸を踊らせていた。  何ひとつない部屋で、荷物の到着を待ちわびながら、外を眺める。  窓から見える景色は、雪の降りしきる、暗い寒空。そして、一面の海――荒波が大きくうねり、今にも襲い掛かってきそうな勢いに、裕吾が心なしか不安を覚えた。  ――田舎だって、分かっちゃいたけど…。  裕吾の大学は、1年目の教養課程は全学生とも、裕吾の地元にある中央キャンパスに通う。2年目からは専門課程となるため、それぞれが地方のキャンパスに分かれる。そして…。  裕吾の所属する水産学部は、彼の実家から遠く離れた地にあった。そこは、住所こそ『市』ではあるものの、人口は5万人を下回り、今もなお減り続けている小さな街だった。  それでも、アパートの近くにコンビニもあれば、小さな商店街もある。学生向けの、安くて美味いと評判の食堂も、歩いて5分の場所にあった。  裕吾は、生活に対する不安感はなく、むしろ初めて親元を離れ自活すること…新たな自分への期待に満ち溢れていた。  
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