タカシ

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   家具の配置や、食器、調理器の整理にひと段落をつけた裕吾は、テーブル代わりの段ボール箱にコンビニ弁当と缶ビールを置き、新生活の門出を祝った。  テレビは配線が面倒なため、明日やることにした。時計代わりの携帯を開く。22時04分。  裕吾はその時、携帯のアンテナが1本しか立っていないことに気づいた。  しばらくの間、画面の左上部を見つめる。  …1本、0本、圏外、また0本…。  不安定に変わり続けるアンテナを見て、裕吾は思った。  ――雪とか風で、アンテナもブレるのかな…。  外は強い波の音と、時おり吹き付ける強い風の音が聞こえる。  裕吾はカーテンを開け、外の様子を窺った。  何一つ照らす物のない、漆黒の闇……。  吸い込まれそうな闇から目を逸らし、カーテンを閉めようとしたその時、裕吾の目にそれが映った。  窓枠に積もった雪。その雪を押し固めるように付いた、ふたつの手の跡…。  裕吾はぎょっとした。そして窓を開け、その下を覗き込んだ。  そこには、大きなスニーカーの足跡が無数に残されていた。  
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