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裕吾は慌ててカーテンを引き、高まる鼓動を抑えようと努めた。
――落ち着け。落ち着け。
あの手の跡も、血に染まった恨めしげな文字も、俺には関係ない。俺は昨日、越してきたばかりだ。第一、タカシって誰だ…。
日が高くなるのを待って、大家さんを訪ねよう。あと3時間くらい待ってから…。
玄関の郵便受けから、ことり、という音が聞こえた。
それに続いて、ひたひたと立ち去る足音。
新聞はまだ取ってない。郵便が来るには、早すぎる。
チラシ配布業者の来訪であったことを願いながら、裕吾は玄関へと向かった。
郵便受けのカバーを手前に開く。その中には、広告ではなく、折り畳まれた紙が一枚のみ投函されていた。
――開げるべきか…?
部屋へと一、二歩戻りかけたところで裕吾は立ち止まり、高鳴る鼓動を意識しながら、その紙を開いた。
『す こ し
や せ た ね』
裕吾の全身が、一気に粟立った。
振り向き、郵便受けに視線をやる。
投函口が押し上げられており、そこから二つの眼が覗いていた。
裕吾が叫び声を上げる前に、投函口はぱたりと閉じられた。
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