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大家への電話は、繋がらなかった。裕吾は、携帯を聞いておかなかったことを悔やんだ。
コンビニに入る。そこには、いつもと全く変わらない、能天気とも思えるほどの日常があった。
――いや、何かが違う。
裕吾は、化粧品ゴンドラの前から、店内を見回した。人影は、見当たらない。
気のせいか…少し安堵し、斜め上に掲げられた防犯ミラーを目にした瞬間、裕吾の全身が強張った。
彼の立っている通路の裏側…そこに、女がしゃがみ込み、両手をついてミラーを見上げていた。
鏡越しに、女と目が合った。
裕吾は女の姿を見据えながら後ずさる。店員が不審そうに見ている。構わず店を出ると、彼は一気に駆け出した。
後ろを振り返ると…女がこちらに駆けてくる姿が目に入った。
――追ってくる…!!
裕吾は交通量の多い国道を、車を避けながら渡りきると、アパートへとひたすら走る。
女との距離が、徐々に縮まってくる。
アパートの目前まで戻ったた時、裕吾は再び振り返った。しかし、後方に女の姿がない。――消えた…?
しかし、それは思い違いだったと、彼はすぐに気づかされた。前方に…部屋を出る時、女が潜んでいたあの場所に、再びその姿を見つけたからだった。
裕吾がドアの前に辿り着く前に、女はこちらに向かってきた。
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