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焦りと恐怖で鍵を持つ手が震え、鍵穴にうまく差し込めない。
女は迫りくる。
裕吾はとっさにドアノブを掴む。ドアは開いた。女が手を伸ばした瞬間、彼は身を翻し、部屋の中へと滑り込んだ。
扉を閉めたと同時に、ドアノブにぐん、と重い力が加えられた。――侵入しようとしている…!
裕吾はドアノブを引き戻しながら、錠をひねり、ドアチェーンを掛けた。
扉の向こうから、どん、どんと体当たりする衝撃音が3度響き、その後両手の爪で引っ掻く音がカリカリと続いた。
裕吾は腰を抜かしそうになりながらも、部屋の奥へと進んだ。――110番しないと。少しでも電波の拾えるところへ…。窓際に寄り、携帯を開いて窓側にかざした時…
ばんっ。
窓を外から叩く手が現れた。
玄関の扉からは、カリカリという音とともに、郵便受けがガチャガチャと鳴らされている。
――何で!?
裕吾はばんばんと叩き続けられる窓際から後ずさる。その時左手に、何かが触れた。
振り返ったその場所には、女が笑みを浮かべて立っていた。
「うわあああっっ」
彼は腰を抜かし、ベッドにへたり込んだ。布団の中から手が現れ、裕吾の手首を掴む。
もはや裕吾に理性的な思考はなく、怯えによる本能的な行動しか取れない状態にあった。
手を振りほどこうと、必死にもがく。しかし外れない。もうひとりの女が、裕吾にゆっくりと迫る。ドアの向こうからも、窓からも、裕吾を求める音が続いている。
裕吾は、言葉にならない叫び声を上げながら、布団の上に失禁していた。
近づいてきた女が、口を開いた。
「タカシ
あいたかった…」
両手首を布団の中から掴まれ、仰向けの状態になった裕吾に、女が覆い被さった。
白目を剥き気絶した裕吾の意識は、二度と戻ることはなかった。
もう、二度と。
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