門出

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   沙織と付き合い始めて、4年半が経っている。淳史は、転勤のない市役所勤め。  そろそろ身を固めないと、周囲が煩くなる年齢にさしかかった。家庭を持ち、数年後には子供ができ、市内に家を構え、そして退職後は……自分の青写真が、嫌でも見えてくる。  ――これで、いい訳がない。『自分探し』なんて青臭い事を考えるつもりなどないにしても…俺にはもっと、別の選択肢があったはずだ。  こんな、フィクションの世界にしか刺激を求められない、退屈な一生なんて…。  そんなもやもやを心の奥底に抱え続けたまま日々を過ごしてきた淳史にとって、『繭子』との出逢いは、人生において自分が変われる、最後のチャンスにさえ思えた。  
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