門出

4/10
前へ
/270ページ
次へ
   繭子は、淳史が職場の同僚と連れ立って新規開拓した『BAR スリーキャッスル』に勤めていた。  もっとも、バイトを始めてまだ2日という彼女であったから、喋りも接客も素人同然で、淳史にはそれが非常に新鮮に感じられた。  繭子は、よく言えば大らか、言い方を変えればガサツな女だった。  大声で笑い、自分の考えをストレートに口に出す。それが常識と照らし合わせた時に、果たしてどうなのかなど顧みることなく。その姿は、自身の生き方に誇りを持っている様にすら思えた。  大人しく、感情を表に出そうとしない沙織とは非常に対照的で、それが淳史にとっては魅力的だった。  淳史が繭子に心を惹かれ、溺れていくのに、そう時間はかからなかった。  
/270ページ

最初のコメントを投稿しよう!

7287人が本棚に入れています
本棚に追加