門出

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   沙織には残業だとメールを入れ、繭子の部屋に入り浸る生活が続いた。  うすうす感づいているのだろう。それでも沙織は淳史のアパートを訪れては、食事を作って帰って行く。  無言のまま手料理をテーブルに並べ、静かに部屋を去って行く沙織の物憂げな表情が、淳史の脳裏を横切る。  後ろめたさをかき消し自らを正当化するために、淳史は沙織の行為を、当てつけだと思うようにしていた。  手を付けないおかずが、冷蔵庫の中に増えていく。  『ちゃんと食事してますか       心配です』  彼はそんな置き手紙にさえ、裏を読みとろうとしていた。  淳史はいつしか、どうやってこの女と別れるか……いつもそれだけに、考えを巡らせるようになっていた。  
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