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淳史は、この重苦しい雰囲気を打破するのが自分の役割であるということを、十分認識していた。
しかし、言葉が出て来ない。一言でもしくじったら、どんな事になるか…。
長い沈黙を破ったのは、繭子だった。
「沙織さん。アタシがなんで、この人に付いてお邪魔したか…」
「ええ。わかってます」
思いの外、沙織の声が力強い事に、淳史は驚く。
「それじゃ…」
繭子は、向き直った沙織の静かなる威圧感に、次の言葉を告げることが出来なかった。
「淳史と別れろと」
繭子は、沙織から視線を外さず、ゆっくりと頷く。淳史はただ、二人のやり取りを見守る事しか出来なかった。
繭子を見据えたままの沙織が、言葉を続ける。
「一つだけ、条件があります」
二人が固唾を飲み、沙織を待つ。
長い沈黙の後、沙織がゆっくりと言った。
「最後に、私の手料理を召し上がって下さい」
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