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淳史は、胸をなで下ろした。
「分かった。食うよ」
「繭子さんも、ご一緒に…」
繭子は、イエスの意思表示とも、会釈とも取れる曖昧な頷きを返した。
沙織は二人を見やると再び立ち上がり、キッチンへと向かった。
――これで、繭子と一緒になれる。メシなど喉を通らない気分だが、それさえ片付ければ、さっさとこの部屋を出ていける。
淳史の安心感が繭子にも伝わり、彼女の身体から力が抜けるのを肩に感じた。
やがて、沙織がトレーに二つの器を乗せ、現れた。その中身は見えない。カレーか…?
沙織が近づくにつれ、二人は異様な臭いを嗅ぎ取った。明らかに、その器から漂う異臭。
目の前に差し出された料理を見た二人は、驚愕した。
「お二人の、人生の門出を祝って、赤飯を炊いたんです。どうぞ、召し上がって……ひと粒残らず、ね」
それは、沙織の手首から噴き出したであろう、真っ赤な血で炊かれた赤飯だった。
(了)
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