自我

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   顔の辺りに、右手を差し出してみる。鏡写しに、そいつは左手を差し出す。  頬から顎を撫でてみる。当然だが、同じ動作をする。  軽く右の眉を吊り上げる。鼻をピクピク動かす。唇を突き出す。鏡の中では、俺が思った通りの表情を見せる。  だが、これは俺が俺だと思っている俺であって、嬉しそうな二ノ宮主任、では、ない。  俺は今まで毎日ここに立ち、何を見ていたんだろう。  何を見せられていたんだろう。  お前、誰だ。  俺は、誰だ。  
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