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「毎日同じ道を通っていると、たまに違う道を通ってみたくならない?例えば、三つ目の角を無視して四つ目の角を曲がってみたりとかさ。なんか、新しい物が見つかりそうで、わくわくするんだよ。」
目を輝かせて語る友人を思い出しながら、私はいつもとは違う道順で帰っていた。そんな事、私一人では思いつかなかった。でも、言われれば、そんな気がしてくるのだから、言葉とは不思議な物だ。
………猫一匹にすら遭遇しない。
確かに、景色は違うけど見知らぬ家とか変哲のない木とかでは発見という現象には至らなく思える。
「っても……現実は……ね…」
自嘲しながら呟いてみても、目にはいつもと少し違う日常しか映らない。
もう、帰ろう。
抗議を始めた脚に答えるかのように、右への角を曲がり、いつもの通りを目指す。
が、曲がった時、家と家の間にひっそりとたたずんでいる、その建物は目についた。
灰色の外壁に黒い屋根、そして窓は無い。アンティークな彫刻で飾られた扉のみが、建物と外を繋いでいるようだ。
喫茶店だろうか。
扉の上の方に、ぼろぼろの看板があり、端の方に片仮名のコとかヒとか横棒等が見て取れる。
私は無意識に、なんの躊躇いも無く扉に近づき、気が付けば、重たそうな扉を開けようと、押していた。
「くっ、あれ……?」
開かない。
鍵が閉まっているのか。
潰れているのか。
それも納得できるくらいに、建物の外装はツタが這い汚れている。
「それは、引いて開けるんですよ?」
不意に掛けられた声。
振り向いた私の目に黒い影が飛び込んできた。
洒落じゃない。
髪も、ネクタイも、スーツも、スラックスも、黒い物を着ている若い男の人が、両手にスーパーの買い物袋を提げて立っていた。
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