『天体標本』

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扉が閉まると同時に室内は闇に落ちる。 見回してみても何も見えない。 下手に動いて椅子やテーブルにぶつかったり、何かに躓いたりしたら面倒だ。 故に動かない。 ただ立ち尽くす。ふと私の背中に青年の声が触れた。 「ようこそ、天体標本へ。」 言い終わりと同時に響くフィンガースナップ。その瞬間、室内に青白い淡い光が降り注ぐ。 光源は天井らしい。何気なく見上げ、そして止まった。 そこには星空が広がっていた。 電飾を適当に散りばめたのとは違う、本来の星それぞれに与えられた光の強さ、大きさ、色。 配置まで計算されているのか、星座が確認できる。 天井には模倣された星空が広がっていた。 買い物両手に私の横を擦り抜ける青年。 「ごゆるりと。」 すれ違い様に掛けられた声で我に返る。 縦に長い店内、両脇にテーブルと椅子が数組づつ同じ数並べられ、奥にはカウンターと最低限の調理ができる設備が配置されている。 星が瞬いている以外、そこは普通の喫茶店だった。 「なるほど……ね。」 自然に湧いた言葉を口に預けて星空を見上げる。 確かに『てんたいひょうほん』だ。 ふと、視線で青年を探す。青年はカウンターの向こう、さほど大きくない冷蔵庫の前に屈んでいる。何かを出したり、入れたり並べたり。買い込んだ物を整理している。
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