もうひとりの想い

23/26
前へ
/179ページ
次へ
  「ずるいよね。学園では私の方が早く小西と知り合ってたのに、そのずっと前から、小西は涼しか見てなかったんだよね」 すっと自然な動きで、田中さんは身をこちらに寄せ、俺との距離を詰めてくる。 「小西と一番仲が良い女の子は、私だと思ってたんだけどな」 田中さんの顔が近づく。 既に、友達としての距離の許容範囲を越えていた。 「ねぇ、小西。私ずっと……小西のこと──」 ……やばい。 なんだこの状況は。 なんだこの空気は。 なんだこの雰囲気は。 なんだこのシチュエーションは!? 田中さんは一体今から何を言おうとしている? いや、そうさ、わかってるさ。 さすがにここまで来てわからないはずはない。 だが、俺は……その前に言わなければならない。 さっきの田中さんの質問にちゃんと答えなければならない。 だから、今度は俺が田中さんの言葉を遮り、さっきの質問の答えを告げた。 「俺は、たとえ高校で初めて夏目涼という少女と出会ったとしても、彼女に惚れていた。それは自信を持って言える」 そうか……俺はこういう人間なんだな。 俺は防波堤の低い男だ。 感情の波が押し寄せれば、簡単に決壊してしまう。 だから、俺はこの波を言葉にして、口から吐き出し続ける。 「確かに、俺は幼い頃の、記憶の中だけの涼を追いかけてこの学園までやって来た。 ……だけどな。俺が今好きなのは、小学生の涼じゃない! ……いや、あの頃の涼も可愛かったが……… と、とにかく! 俺は! この学園に来て、生徒会長になって、あの学園のアイドルを追いかけて学園を走り回って………あいつのことを、改めて好きになったんだ。惚れ直したんだ! 俺は二回、夏目涼に惚れてるんだよ」 ……正直、かなり恥ずかしい。 普段なら、田中さん相手に何恥ずかしいセリフ並べたてて、何を長々と語っちゃってんだよって感じなんだが……今は恥ずかしがってる場合じゃない。 俺は過去なんてなくたって、涼のことが好きなんだ。 俺の隣に並び立つのは、涼以外ありえないんだ。 「はっきり言おう! たとえ何度人生をやり直しても、毎回違う出会い方をしていたとしても、俺は夏目涼に惚れる! たとえいくつの平行世界があったとしても、俺は必ず、夏目涼に恋をしているはずだ!!」  
/179ページ

最初のコメントを投稿しよう!

8235人が本棚に入れています
本棚に追加