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「ずるいよね。学園では私の方が早く小西と知り合ってたのに、そのずっと前から、小西は涼しか見てなかったんだよね」
すっと自然な動きで、田中さんは身をこちらに寄せ、俺との距離を詰めてくる。
「小西と一番仲が良い女の子は、私だと思ってたんだけどな」
田中さんの顔が近づく。
既に、友達としての距離の許容範囲を越えていた。
「ねぇ、小西。私ずっと……小西のこと──」
……やばい。
なんだこの状況は。
なんだこの空気は。
なんだこの雰囲気は。
なんだこのシチュエーションは!?
田中さんは一体今から何を言おうとしている?
いや、そうさ、わかってるさ。
さすがにここまで来てわからないはずはない。
だが、俺は……その前に言わなければならない。
さっきの田中さんの質問にちゃんと答えなければならない。
だから、今度は俺が田中さんの言葉を遮り、さっきの質問の答えを告げた。
「俺は、たとえ高校で初めて夏目涼という少女と出会ったとしても、彼女に惚れていた。それは自信を持って言える」
そうか……俺はこういう人間なんだな。
俺は防波堤の低い男だ。
感情の波が押し寄せれば、簡単に決壊してしまう。
だから、俺はこの波を言葉にして、口から吐き出し続ける。
「確かに、俺は幼い頃の、記憶の中だけの涼を追いかけてこの学園までやって来た。
……だけどな。俺が今好きなのは、小学生の涼じゃない!
……いや、あの頃の涼も可愛かったが………
と、とにかく! 俺は! この学園に来て、生徒会長になって、あの学園のアイドルを追いかけて学園を走り回って………あいつのことを、改めて好きになったんだ。惚れ直したんだ!
俺は二回、夏目涼に惚れてるんだよ」
……正直、かなり恥ずかしい。
普段なら、田中さん相手に何恥ずかしいセリフ並べたてて、何を長々と語っちゃってんだよって感じなんだが……今は恥ずかしがってる場合じゃない。
俺は過去なんてなくたって、涼のことが好きなんだ。
俺の隣に並び立つのは、涼以外ありえないんだ。
「はっきり言おう! たとえ何度人生をやり直しても、毎回違う出会い方をしていたとしても、俺は夏目涼に惚れる! たとえいくつの平行世界があったとしても、俺は必ず、夏目涼に恋をしているはずだ!!」
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