もうひとりの想い

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  ─────── 小西が奇声を上げながら走り去り、それを涼が満面の笑みで追いかけて行った後、残された野次馬達には大爆笑が起こった。 「会長、まんまと引っ掛かってやんのー! マジうけるし!」とか、「あの会長の顔見たかよ!?」とか、「会長男だよなー、俺だったら確実に田中さんの誘惑に負けてるぜ」とかみんなが騒いでいる中で、私一人だけが静かに小西達の走り去った方を見つめていた。 「よぉ、お疲れー田中さん。いや、素晴らしかった。主演女優賞並みの演技だったよ。なんたってあの幸人を騙し通したんだもんな!」 そんな私に気づいた吉川が、一人抜け出して私のところにやって来た。 ちっ……矢野と野々村と早苗のところで騒いでればいいのに。 「まぁね。小西って頭良いくせに単純だから、罠には必ず引っ掛かるんだよね」 思えば、小西が涼の罠に引っ掛からなかったことってなかった気がする。 あいつは、罠だとわかっていても自ら飛び込むような、真っ直ぐな馬鹿だから。 でも、そんな馬鹿みたいな真っ直ぐさが、私には格好良く見えていた。 「……そんで、田中さんはそれでいいの? 昨日からの幸人への態度、全部演技だったとは思えないけど?」 吉川にはバレバレか。 でも、私は別に小西に恋してるわけじゃない。 「私はね、小西のこと、純粋に格好良いと思ってるんだよ」 「そうだな。それであの夏目さんも惚れたわけだし、田中さんが同じように思うのも不思議じゃないよ」 「ううん……違う。私は思うんだ。小西の格好良さの根っこには、涼の存在がいる。涼がいてこそ、私の憧れる小西なんだよ。だからきっと、二人が一緒にいるのが、一番いいんだよ」 そこに、嫉妬や恨みは無かった。 ただ純粋に、二人を見ていて嬉しい気持ちになれた。 「なんだ……幸人をめぐって夏目さんと対決! とかだったら面白いのにな~」 そんな勝手なことを言う吉川に、私は笑いながら言ってやった。 「それはないね。だって私、勝てない勝負はしない主義だからさ!」 夏目涼と小西幸人。 この二人みたいな関係になれる人が、私にもいるんだろうか。 小西の他に親しい男子といったら、吉川と矢野と野々村だけど…… 矢野はないとして……吉川か野々村か。 小西に比べたら、どっちもまだまだかな。
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