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しばらくして、がらりと扉が開いた。
欝陶しいほど勿体振って、担任の教師が入ってきる。
あたしは、軽く寝てたせいで適度にぼんやりした頭をなんとか持ち上げて、そいつを観察する。
若い女……恐らくかなりの新米。おとなしめの髪色にゆるいウェーブが、何だかスーツに不釣り合いだ。着慣れてない感じ。
姉貴もクラスメイトだけじゃなくて、担任まで気を遣ってくれよな……。そういうところ、甘いんだから。
担任は楽しそうに、高らかに言う。
「このあとに始業式だけど、フライングでご挨拶。仲嶺宏子です! 今日からここに赴任してきた、みんなの担任ね。担当科目は数学だけど、理系ならオールマイティのつもりよ。よろしく!」
男子の煽りで、まばらな拍手。
仲嶺は続ける。
「じゃ、体育館へ移動の前に、点呼するね。名前間違ってたら、言ってね!」
その一言を合図に、結構遠い位置にいる千尋が、くすりと微笑んだのがわかる。
ちらりと見ると、千尋もあたしに目配せをした。さっきの黒い笑顔。
そっか、あたしがもし笑えたら、きっとそんな顔するんだな。どうせ拝む日はないけれど。
あたしは千尋に視線だけで応えた。
――皆の頭に焼き付くまでは黙っとけ。
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