1.ヒト

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「――――那智さんっ!」 「ああ、火影ちゃん。こんにちは」 「こんちは!」  走り抜けてきたあたしを、那智さんは笑顔で迎えてくれた。  那智さん――ビビコ先生の仕事場。やっすいアパートの1Kで、まあまあ広い部屋、白い壁に木目のフローリング。先生のデスクとアシスタントさんのデスクがいくつか。沢山の資料は、本棚から溢れていて、来るたびに足の踏み場が減っている。  ビビコ先生は漫画家で、本名は木更津那智。26歳、シングルのはずだけど、ひょっとしたら彼氏くらいいるかも。あたしより少し低い背に、ショートのパーマが可愛い美人だ。  ―――あたしの、憧れの人。  那智さんはくるりと部屋を見渡して、苦笑した。 「部屋、散らかっててごめんねー。アシさんの椅子にでも座ってて、希俊くんのあたりは綺麗だから」 「あ、うん」  希俊さんは……ここのはず。  アシスタントさんとも仲良くしてもらってる。締切日が近くなると、よく呼び出されて飯作ったりしてるから。アシさんたちもいい人ばかりだ。那智さんの人徳なんだろう。  
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