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「――――那智さんっ!」
「ああ、火影ちゃん。こんにちは」
「こんちは!」
走り抜けてきたあたしを、那智さんは笑顔で迎えてくれた。
那智さん――ビビコ先生の仕事場。やっすいアパートの1Kで、まあまあ広い部屋、白い壁に木目のフローリング。先生のデスクとアシスタントさんのデスクがいくつか。沢山の資料は、本棚から溢れていて、来るたびに足の踏み場が減っている。
ビビコ先生は漫画家で、本名は木更津那智。26歳、シングルのはずだけど、ひょっとしたら彼氏くらいいるかも。あたしより少し低い背に、ショートのパーマが可愛い美人だ。
―――あたしの、憧れの人。
那智さんはくるりと部屋を見渡して、苦笑した。
「部屋、散らかっててごめんねー。アシさんの椅子にでも座ってて、希俊くんのあたりは綺麗だから」
「あ、うん」
希俊さんは……ここのはず。
アシスタントさんとも仲良くしてもらってる。締切日が近くなると、よく呼び出されて飯作ったりしてるから。アシさんたちもいい人ばかりだ。那智さんの人徳なんだろう。
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