1.ヒト

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 那智さんは奥に消えた。良い匂いがする……紅茶でも煎れてくれるのかな。なんだか申し訳ない。 「あの、本当にお構いなく……」 「何言ってんの、火影ちゃんを構わないで誰を構うのよ。はい、ビビコ特製ロイヤルミルクティー!」 「……ども」  美味い。香りも。紅茶って落ち着くんだよな……なんだっけ、鎮静作用?  ふはあ、と息をつくと、那智さんがくすりと笑う。 「何かあったのね?」 「………ん」  あたしが小さく頷くと、那智さんは希俊さんの隣の机に腰を乗せるようにもたれ掛かった。確かシイナさんの机。無理矢理座ったから更に紙が散らばったけど、流石は那智さん、まったく気にしてないようだ。  那智さんはあたしの頭をぐしゃりと撫でる。あ、今の、姉貴に似てる。 「言えるなら言いなよ。火影ちゃんはいっぺん堕ちると、とことんまで堕ちるから。私ができることがあったらするし」 「いや……大丈夫。今回は完全にあたしが悪かったんだよ」  あたしの言葉を聞いて、那智さんは目をまるくした。  ……まあ、言いたいことはわかるけど。  那智さんは嬉しそうに笑って、ぱちぱちと手を叩いていた。 「珍しい! 火影ちゃんが自分で立ち直ろうとしてる。偉いねえ」 「……………」  そうだ。  立ち上がることを覚えたのも――那智さんのお陰。  あたしに《名前》をくれた那智さん。  あたしの……憧れの人。  
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