29人が本棚に入れています
本棚に追加
那智さんは奥に消えた。良い匂いがする……紅茶でも煎れてくれるのかな。なんだか申し訳ない。
「あの、本当にお構いなく……」
「何言ってんの、火影ちゃんを構わないで誰を構うのよ。はい、ビビコ特製ロイヤルミルクティー!」
「……ども」
美味い。香りも。紅茶って落ち着くんだよな……なんだっけ、鎮静作用?
ふはあ、と息をつくと、那智さんがくすりと笑う。
「何かあったのね?」
「………ん」
あたしが小さく頷くと、那智さんは希俊さんの隣の机に腰を乗せるようにもたれ掛かった。確かシイナさんの机。無理矢理座ったから更に紙が散らばったけど、流石は那智さん、まったく気にしてないようだ。
那智さんはあたしの頭をぐしゃりと撫でる。あ、今の、姉貴に似てる。
「言えるなら言いなよ。火影ちゃんはいっぺん堕ちると、とことんまで堕ちるから。私ができることがあったらするし」
「いや……大丈夫。今回は完全にあたしが悪かったんだよ」
あたしの言葉を聞いて、那智さんは目をまるくした。
……まあ、言いたいことはわかるけど。
那智さんは嬉しそうに笑って、ぱちぱちと手を叩いていた。
「珍しい! 火影ちゃんが自分で立ち直ろうとしてる。偉いねえ」
「……………」
そうだ。
立ち上がることを覚えたのも――那智さんのお陰。
あたしに《名前》をくれた那智さん。
あたしの……憧れの人。
最初のコメントを投稿しよう!