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家に帰ると、姉貴は電話していた。
携帯じゃない……仕事の連絡じゃないのか?
姉貴はふとあたしを見て、困ったように笑った。
「今、帰ってきましたけど……はい。んじゃ、代わりますけど、絶対逆上させるようなこと言わないでくださいよ」
そう言って、あたしに受話器を突き出してくる。誰? 那智さん?
戸惑いつつも受話器を受け取り、耳にあてた。
「……もしもし?」
『おー、何だよ、可愛い声が出るんじゃん』
「………………………」
『……もしもし? 火影ちゃん?』
「…………あーっ!! てめっ、えーと……葛西、葛西雄大!?」
『忘れてたのかよ……泣くぞ俺』
電話の向こうは葛西……と、更に遠くできゃんきゃんと女の声。誰だっけ?
葛西の乾いた笑い声がする。
『えーと……その……ごめん。なんか………悪いこと言ったみたいで』
―――――謝られた。
たぶん、あの馬鹿みたいな笑顔で。
あたしはすっと気持ちが冷めて、極めて冷徹に言った。
「別に。気にしてない。あんたの名前も覚えてないくらいだし?」
『いや……だから……。いいや、ちょっと待ってて』
「はあ?」
向こうでしばらく騒ぎ声。さっきの女――ああ、そうだ。仲嶺だ。
何なんだよ……。
すると、急にバタバタと移動する音がして、仲嶺の声がしなくなった。
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