1.ヒト

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「悪いねえ、笑えねーんだ、あたし。なんか……仏頂面で居すぎたみたいで」 「笑えないって……」 「色々――あるんだよ」  ―――炎の色。  あんたは知ってるか、葛西。  緋と黒が、全部を飲み込むサマを、知ってるか。 「――笑えないの、あたし」 「…………火影?」 「何で? いつから? ………知らない。わかんないよ。あたし、たぶん心が死んじゃってるんだよ。あは、笑えなくて、泣けなくて――人間らしさってそーゆーもんでしょう? あたし、何なんだろうね。自分でもわかんないの」 「火影」 「本当はねえ、あたし、父親と母親と兄貴がいるんだって。なのにね、今一緒にいるの、姉貴なんだって。みんないなくて、いないはずの姉貴だけがいるの。何なんだろうね。友達連中もさあ、みんなあたしが可哀相なんだって。あたし、結構好き放題してるんだけどねえ――本当、何なんだろうね」 「火影!」  ――その瞬間、あたしは我に返った。  あれ、あたし、今――何喋ってた? 「葛西、あたし……今、何言った? 葛西、何か言ったか? あたし、今――」 「火影、落ち着け。大丈夫だから」  途端に視界が暗くなる。煙草の臭い。ピース――ああ、懐かしいな、これ。 「あたし、あたし――火影? 火影だろ? あたしは――火影なんだろ?」 「そうだ。お前だ。火影だ」 「あたし、あたしは――」  紀じゃない。  そう呟いて、あたしは意識を失った。  秋谷――と、小さく叫んだ葛西の声が、あたしの耳に届く前に。  
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