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「悪いねえ、笑えねーんだ、あたし。なんか……仏頂面で居すぎたみたいで」
「笑えないって……」
「色々――あるんだよ」
―――炎の色。
あんたは知ってるか、葛西。
緋と黒が、全部を飲み込むサマを、知ってるか。
「――笑えないの、あたし」
「…………火影?」
「何で? いつから? ………知らない。わかんないよ。あたし、たぶん心が死んじゃってるんだよ。あは、笑えなくて、泣けなくて――人間らしさってそーゆーもんでしょう? あたし、何なんだろうね。自分でもわかんないの」
「火影」
「本当はねえ、あたし、父親と母親と兄貴がいるんだって。なのにね、今一緒にいるの、姉貴なんだって。みんないなくて、いないはずの姉貴だけがいるの。何なんだろうね。友達連中もさあ、みんなあたしが可哀相なんだって。あたし、結構好き放題してるんだけどねえ――本当、何なんだろうね」
「火影!」
――その瞬間、あたしは我に返った。
あれ、あたし、今――何喋ってた?
「葛西、あたし……今、何言った? 葛西、何か言ったか? あたし、今――」
「火影、落ち着け。大丈夫だから」
途端に視界が暗くなる。煙草の臭い。ピース――ああ、懐かしいな、これ。
「あたし、あたし――火影? 火影だろ? あたしは――火影なんだろ?」
「そうだ。お前だ。火影だ」
「あたし、あたしは――」
紀じゃない。
そう呟いて、あたしは意識を失った。
秋谷――と、小さく叫んだ葛西の声が、あたしの耳に届く前に。
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