1.ヒト

26/28
前へ
/119ページ
次へ
「さて、まずは仲嶺先生、火影は、まあ今のところ大丈夫なようです。ご家族――ご家族の方に連絡は俺がしますから、こういった事があった、くらい把握しといてください。火影のプライバシーを侵害しない程度のご説明はしますので、後ほど。あと、たぶん心配だろうから来て頂いたお三方には……どうしよう? 火影になんか喋ってく?」 「むぐっ! はふ、むぎーっ!」  とりあえず手を離せーっ! と訴えてみるも、 「ちょ、息がくすぐったいって。もうちょっとだけ我慢な」  呆気なく却下された。くそ、あいつらとは気まずいってーのに。  しかし、揃って泣きそうな顔の3人は、そろそろとあたしに近づいてきた。  みんな……すげえ、心配したんだろうな。 「火影……。千尋だよ、わかる?」 「うち、渚! 心配したんだよっ!?」 「壱……壱です。よかったです、気がついて」 「……………はふう」  返事ができないんですけど。  あたしがなんとか首を振って応えると、葛西が目で合図して、仲嶺に促されるように3人が……いや、一緒に仲嶺も出ていった。  あたしは、ただひとり残った葛西を見上げた。  葛西だけ残ったのは―― 「……あたし、何言ったんだ?」  ――それを、説明してくれるからだろ?  しかし、葛西は首を振った。 「たぶん……俺が聞いたらいけないことだった。と、俺は、思います」 「…………そう、か」  そうだろうな、とは思う。  今までだってそうだったんだから。  でもな、葛西。  あたしはそれから、逃げてきたんだよ。  ずっと、ずっと。  
/119ページ

最初のコメントを投稿しよう!

29人が本棚に入れています
本棚に追加