1.ヒト

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「さっき、ひろ――仲嶺先生にはああ言ったけど、お前が言ったことについては、俺は誰にも口外しない、つもりです。俺も……早いこと、忘れるから」 「あのさ、葛西」 「だから言わねえって。本当に。忘れるよう努力するよ。お前は気にしないかもしれないけど。俺には、結構衝撃的っていうか」 「いや、あのさあ」 「あ、衝撃的って言っても、そんな酷い話じゃなくて……いや、辛いけど、やっぱ、そのー……誰だって色々あるもんだし」 「聞けよ」  あたしが聞きたいのはさ。  そんな悲しい話じゃねえんだよ。  みんなが可哀相な顔して見るのが、果てしなく嫌なのは――あたしが、あたし自身が、辛い思いをしたくないからなんだよ。  あんた、言ってくれたじゃん。  勿体ないって。  こんな素敵な子がって。  あれ、すごく嬉しかったんだよ。  あんたは――あたしを可哀相だって、思わなかったんだよ。  さっきみたいにさ。  くだらない話をしようよ。  くだらない、話を。 「――ピース?」 「……は?」 「ピースだろ、銘柄。煙草の」 「お……おお。ショートピース。何で? あ、臭い? さっき、その……抱きとめたときか。でも、臭いで銘柄までわかるもんか?」 「おう。なんかな、懐かしかったんだよ、お前。んで、わかった。ああ―――  ――親父、ピースだったな、って」  
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