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「さっき、ひろ――仲嶺先生にはああ言ったけど、お前が言ったことについては、俺は誰にも口外しない、つもりです。俺も……早いこと、忘れるから」
「あのさ、葛西」
「だから言わねえって。本当に。忘れるよう努力するよ。お前は気にしないかもしれないけど。俺には、結構衝撃的っていうか」
「いや、あのさあ」
「あ、衝撃的って言っても、そんな酷い話じゃなくて……いや、辛いけど、やっぱ、そのー……誰だって色々あるもんだし」
「聞けよ」
あたしが聞きたいのはさ。
そんな悲しい話じゃねえんだよ。
みんなが可哀相な顔して見るのが、果てしなく嫌なのは――あたしが、あたし自身が、辛い思いをしたくないからなんだよ。
あんた、言ってくれたじゃん。
勿体ないって。
こんな素敵な子がって。
あれ、すごく嬉しかったんだよ。
あんたは――あたしを可哀相だって、思わなかったんだよ。
さっきみたいにさ。
くだらない話をしようよ。
くだらない、話を。
「――ピース?」
「……は?」
「ピースだろ、銘柄。煙草の」
「お……おお。ショートピース。何で? あ、臭い? さっき、その……抱きとめたときか。でも、臭いで銘柄までわかるもんか?」
「おう。なんかな、懐かしかったんだよ、お前。んで、わかった。ああ―――
――親父、ピースだったな、って」
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