1.ヒト

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 ――葛西は目を見開いて固まった。あたしは構わず、続ける。 「ピースって結構キツイんだろ? ニコチンとか、タールとか。母親が嘆いてたよ。お前、ほどほどにしとけよ。彼女が泣くぞ。あたしの前でなら、大歓迎だけどな」 「………おお」 「あ、母親だっけ。違う違う、母親はマイセンだ、マイルドセブンのスーパーライト。あっちのが軽いんだろ? たぶん。よく覚えてねえけど。父親があんまり変わらねえよって笑って、母親が何言ってんだ馬鹿って怒ってたよ。さしずめお前も馬鹿だな、葛西」 「お前、寝てろよ」 「やだね。あたしさ、言ったけど、本当に吸ったことねえんだよな。フロンティアとか、軽ーいやつなら吸いてえな。へへ、もう買えないけどなあ」 「寝てろって」 「なあ、葛西雄大」 「……何だよ」  ごめんな、葛西。  あたし、ガキだからさ。  お前に甘えちゃってんな、かなり。  せめて――こんなときぐらい、笑顔になれたらな。 「あたし、何なんだろうな」  葛西が、少しだけ息を飲んで。  がし、と、あたしの頭を掴んで言った。 「お前はお前だろ。他の誰でもねえよ」 「そっか」 「いいから寝てろ」 「おう……いや、最後にひとつ」  あたしは、ふと顔を近づけて、鋭く囁いた。  ―――あたしが言ったこと、忘れんなよ。絶対。 「……おお。約束、する」  ああ――やっぱりお前、優しいわ。  あたしは、今度こそ素直に、目を閉じた。  
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