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――葛西は目を見開いて固まった。あたしは構わず、続ける。
「ピースって結構キツイんだろ? ニコチンとか、タールとか。母親が嘆いてたよ。お前、ほどほどにしとけよ。彼女が泣くぞ。あたしの前でなら、大歓迎だけどな」
「………おお」
「あ、母親だっけ。違う違う、母親はマイセンだ、マイルドセブンのスーパーライト。あっちのが軽いんだろ? たぶん。よく覚えてねえけど。父親があんまり変わらねえよって笑って、母親が何言ってんだ馬鹿って怒ってたよ。さしずめお前も馬鹿だな、葛西」
「お前、寝てろよ」
「やだね。あたしさ、言ったけど、本当に吸ったことねえんだよな。フロンティアとか、軽ーいやつなら吸いてえな。へへ、もう買えないけどなあ」
「寝てろって」
「なあ、葛西雄大」
「……何だよ」
ごめんな、葛西。
あたし、ガキだからさ。
お前に甘えちゃってんな、かなり。
せめて――こんなときぐらい、笑顔になれたらな。
「あたし、何なんだろうな」
葛西が、少しだけ息を飲んで。
がし、と、あたしの頭を掴んで言った。
「お前はお前だろ。他の誰でもねえよ」
「そっか」
「いいから寝てろ」
「おう……いや、最後にひとつ」
あたしは、ふと顔を近づけて、鋭く囁いた。
―――あたしが言ったこと、忘れんなよ。絶対。
「……おお。約束、する」
ああ――やっぱりお前、優しいわ。
あたしは、今度こそ素直に、目を閉じた。
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