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「道端でこういうことするの嫌いなくせに……。はい、できた。格好良いよ」
「さんきゅ」
高めの位置でまとめてもらった髪を、軽く振る。
長い黒髪。切るのが面倒だから伸ばしているだけなのだが、自分で結べないから欝陶しいことこの上ない。いつもは姉貴に頼むが、仕事でいないときはそのまんまだ。見兼ねた誰かが結んでくれるからいいけど。
学校じゃ、教員連中がうるさいしな。
すると千尋は呆れた表情を急に曇らせて、あたしから顔をそむけた。
次に言われることはわかってる。あたしは頭を掻いた。千尋が小さな声で呟く。
「……お礼なんかいらないよ。仕方ないじゃない」
「仕方ないとか言うなよ。あたしが悪いんだからさ」
「火影は悪くない!」
千尋は悲痛そうに叫んだ。
言ってから、はっ、と口を押さえる。
「ご……ごめん」
ごめん、ね。
その言葉が1番嫌いだって、お前は知ってるだろうに。
あたしはぶっきらぼうに言う。
「謝んなって。ああもう、面倒だなあ……気にすんなよ」
「………うん」
あたしが気にしてないのに、周りはみんな気を遣う。特に、千尋。
別にどうってことないじゃないか。
“鏡が見られない”、なんてこと。
「おら、いつまでもぐだぐだしてたら遅刻すんぞ?行こうぜ」
「……そだね。行こっか」
千尋が顔をあげたのを見て、あたしはぐしゃりと千尋の頭を撫でた。
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