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あたしは鏡が見られない。
自分の顔を見たくないから。
鏡だけじゃない。
本名も、無理。
あいつらの声が、蘇ってくるから。
「ほーかげっ♪」
「渚、壱」
「久し振りです。……元気そうですね」
追いかけてきたのは、戸祭渚と鹿浜壱。二人とも千尋と同じ、あたしの大切な親友だ。
明るい赤毛に中性的な顔付きの渚は、なかなか調子の良い性格なので、よく一緒に馬鹿をやっている。
一方、どことなく色素の薄い壱は、とても大人しいものの、好奇心は人一倍。一緒にいると、愉しいことこの上ない。
さて、終了式ぶりだから……そんなに久し振りってこともないのだが、まあ毎日のように顔を合わせていたあたしたちからすれば、2週間はかなりの長期間だ。
渚は相変わらずへらりと笑う。
「火影、まーたぼろぼろじゃん。格好良いー!」
「おう。似合うだろ?」
「褒めてないよ、火影……」
「わかってるっつーの。ったく、千尋は冗談が通じねえなあ」
また千尋に呆れられる。渚が笑っている。壱も。
こいつらの隣は、たまらなく居心地がいい。でも……。
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