22人が本棚に入れています
本棚に追加
翌日、宗太郎は外回りの営業に出ていた。
「どうしたんですか、先輩」
隣で車の運転をしながら、後輩が心配している。
「あぁ、…ちょっとな。すまんがコンビニにでも寄ってくれないか?」
助手席に座る宗太郎は、うなだれるように言った。
昨晩、あの電話の後すぐに眠りについたはずだが、妙に眠たい。
今はコーヒーの苦味を味わってスッキリしたい気分だった。
「大丈夫ですか?」
横で後輩が気遣いの言葉を投げかけるが、宗太郎の耳にそれは届かない。
今、彼の頭の中は例の電話の事でいっぱいだった。
(いっその事、電話を解約するか?)
いや、それでは何の解決にもならない。
どこの誰だか分からないが、宗太郎の携帯だけでなく家の電話番号まで調べている人物がいるのだ。そう考えるだけで気分が悪かった。
「先輩、着きましたよ」
後輩が言う。見ると車はコンビニの駐車場に泊まっていた。
「すまんな。コーヒーを買ってくるわ。君は何がいい?」
そう言うと宗太郎は車を降りた。
暖房の効いた車の外は、酷く寒い。
なかば小走りでコンビニに入ろうとした時、宗太郎は入り口に飾ってあるクリスマスツリーに気が付いた。
(あ、そうか)
忙しい仕事の毎日で気付かなかったが、今日はクリスマスイヴだった。
クリスマスと言えば…。
宗太郎には懐かしい思い出がある。
それは学生時代。当時付き合っていた彼女と交わした思い出の約束。
(約束…?)
コンビニの自動扉の前で、宗太郎の足が止まった。目の前には、色鮮やかな装飾に身を包んだクリスマスツリー。
宗太郎の脳裏に、かつての思い出が蘇った。
最初のコメントを投稿しよう!