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…薄暗い部屋の中に、宗太郎はいた。
学生服を着た彼は、椅子の上に座っていた。
身体を揺らすとギシギシと音をたてる、堅い椅子だった。
部屋の中央にはベッドが一つ。そして、その上には少女が一人横たわっていた。
この部屋は、病室だった。
宗太郎は、学校であった出来事や、前の晩に聞いたラジオの内容等を面白おかしく喋っては、少女が笑顔でその会話に答えてくれるのをひたすらに楽しんでいた。
ふと、少女の笑みが止まり、病室の天井を見つめた。
「ねぇ、宗太郎…」
少女が口を開いた。
「私たち、付き合ってるんだよね…」
「ん…?どうしたんだよ突然」
夕日がカーテンの隙間からこぼれる部屋の中、宗太郎はベッドの上の少女を見た。
彼女の名前は亜希子といった。
「私たち、結婚するのかな…」
亜希子は、天井を眺めながら言う。
「亜希子…」
彼女が入院して数ヶ月が経過する。病状は悪化する一方であった。
「結婚するさ。…いや結婚しよう。明日でもいい」
「馬鹿」
そう言いながら、亜希子は笑った。
「私たち、まだ高校生じゃないの」
「だったら5年後。5年後に結婚しよう」
亜希子が退院して、一緒に高校を卒業して、働いて、経済力を付けて、そして結婚。…幸せな二人の将来。
宗太郎は、子供がはしゃぐように理想の未来を亜希子に聞かせた。
「いっぱい勉強して仕事して、5年後には立派な男になって見せるさ。絶対に亜希子を幸せにするよ」
「ありがとう、宗太郎。…楽しみにしてるね」
彼女の目に涙が溢れている。それを見た宗太郎も泣きそうになり、その顔を見られまいと顔をそむけた。
「ねぇ、ひとつだけお願いがあるの…」
亜希子は宗太郎から視線を外さずに、潤んだ目で見つめながら言った。
「結婚式は、クリスマスの日に挙げたいな」
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