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「すまん!急用を思い出した。今日はもう帰るから、後は頼む!」
「え…?ちょっと、先輩!」
後輩をコンビニに一人残すと、宗太郎は駐車場に停車していたタクシーに乗り込んだ。
「運転手さん!至急、行って欲しいところがあるんだ」
そして、行き先を告げる。
…宗太郎は、全てを思い出したのだ。
学生時代に交わした約束。…亜希子が亡くなる一ヶ月前に交わした大事な約束を、宗太郎ははっきりと思い出した。
これまで、恐怖のあまりにどうかしていた。あの電話から聞こえた声は、間違いなく、5年前に死んだ亜希子の声だったのだ。
走り出すタクシーの中、宗太郎は携帯の待ち受け画面を見た。
(今日は12月24日なんだ…)
クリスマス・イヴだ。だから今晩の午前0時にクリスマスを迎える事になる。
二人が結婚を約束した日が、あと十数時間後にやって来るのだ。
【約束…覚えてる…?】
毎晩、電話を通して伝えられてきたメッセージを、宗太郎は思い返した。亜希子は死んでからもずっと覚えていたのだ。いや覚えていてくれたのだ。
(俺は何をやってきたんだ…!)
亜希子が亡くなった後、宗太郎は勉強に打ち込んだ。一流会社に就職した今も、仕事だけを真面目に取り組んできた。約束通り立派な男になる為に。
(だけど)
一生懸命に頑張っていたが、皮肉にも、そのせいで一番大切な約束を忘れていたのだ。
亜希子が最も強く望んだ、大切な約束を…。
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