雪見酒

2/17
前へ
/66ページ
次へ
 大晦日ー。  草津温泉に向かうレンタカーの車内には、沈黙が漂っていた。  楓は一体どうしたのか。  倒れた日以来、俺の顔を見ようとせず、明らかに避けている楓の態度に俺は戸惑っていた。  一緒に眠るダブルベッドの中でも背を向ける楓。  それいでもウチに帰ってくるだけ、安心はするのだが、暗く沈んだ楓の表情が気になった。   「楓…やっぱり迷惑だったか?」 「え…?」  沈黙を破った俺の声に驚いたのか、助手席の楓は目を丸くした。 「やっぱり帰るか?」 「何で…?」 「楓、楽しくないだろ?ずっと何か考え事してるし」 「そんなことないよ…大丈夫」  楓の細い髪が俯いた顔にかかり、淡い影を落とす。  言葉とは裏腹なその表情を横目で見やり、俺はため息を飲み込んだ。  どうしたら楓の心を溶かすことができるのだろう。  高速をひた走る車からは、冬の澄んだ青空が見え、遠くの山々を綺麗に映し出していた。  その景色を楽しむわけでもなく、楓は俯いたまま、窓に寄りかかり目を閉じた。 .
/66ページ

最初のコメントを投稿しよう!

83人が本棚に入れています
本棚に追加