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大晦日ー。
草津温泉に向かうレンタカーの車内には、沈黙が漂っていた。
楓は一体どうしたのか。
倒れた日以来、俺の顔を見ようとせず、明らかに避けている楓の態度に俺は戸惑っていた。
一緒に眠るダブルベッドの中でも背を向ける楓。
それいでもウチに帰ってくるだけ、安心はするのだが、暗く沈んだ楓の表情が気になった。
「楓…やっぱり迷惑だったか?」
「え…?」
沈黙を破った俺の声に驚いたのか、助手席の楓は目を丸くした。
「やっぱり帰るか?」
「何で…?」
「楓、楽しくないだろ?ずっと何か考え事してるし」
「そんなことないよ…大丈夫」
楓の細い髪が俯いた顔にかかり、淡い影を落とす。
言葉とは裏腹なその表情を横目で見やり、俺はため息を飲み込んだ。
どうしたら楓の心を溶かすことができるのだろう。
高速をひた走る車からは、冬の澄んだ青空が見え、遠くの山々を綺麗に映し出していた。
その景色を楽しむわけでもなく、楓は俯いたまま、窓に寄りかかり目を閉じた。
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