雪見酒

4/17
前へ
/66ページ
次へ
 草津温泉には170軒もの宿がある。  その中で俺が予約したのは、露天風呂付きの部屋がある、有名な温泉宿だ。 「すごい…!」  女将さんに案内され、襖を開けた途端、視界に飛び込んできた景色に思わず息を呑んだ。  二間続きの和室の外には、檜の露天風呂がある。  そこから立ち込める湯気の間から、宿自慢の森林が見えた。 「昨夜、雪が降ったので木々も白く染まって綺麗になりました。 夜にはライトアップもされますので、お風呂で暖まりながらご観賞下さいね」  女将さんに説明されながら、和室の中央のこたつに足を入れる。 「掘りごたつなんですね」   楓が女将さんに聞いた。 「えぇ。お年寄りの方や障害のある方も利用されますから」   その会話を聞きながら、俺は幸せを噛みしめていた。  先ほどの心配事が嘘のように、落ち着いている。 「楓、気に入ってくれた?」 「もちろんだよ。 先輩、ありがとう」  女将さんが去って二人きりの世界。  俺は逸る鼓動を必死で抑えた。  照れくさくなり、時計を見ると、まだ三時だった。  夕食まで、十分に時間がある。 .
/66ページ

最初のコメントを投稿しよう!

83人が本棚に入れています
本棚に追加