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草津温泉には170軒もの宿がある。
その中で俺が予約したのは、露天風呂付きの部屋がある、有名な温泉宿だ。
「すごい…!」
女将さんに案内され、襖を開けた途端、視界に飛び込んできた景色に思わず息を呑んだ。
二間続きの和室の外には、檜の露天風呂がある。
そこから立ち込める湯気の間から、宿自慢の森林が見えた。
「昨夜、雪が降ったので木々も白く染まって綺麗になりました。
夜にはライトアップもされますので、お風呂で暖まりながらご観賞下さいね」
女将さんに説明されながら、和室の中央のこたつに足を入れる。
「掘りごたつなんですね」
楓が女将さんに聞いた。
「えぇ。お年寄りの方や障害のある方も利用されますから」
その会話を聞きながら、俺は幸せを噛みしめていた。
先ほどの心配事が嘘のように、落ち着いている。
「楓、気に入ってくれた?」
「もちろんだよ。
先輩、ありがとう」
女将さんが去って二人きりの世界。
俺は逸る鼓動を必死で抑えた。
照れくさくなり、時計を見ると、まだ三時だった。
夕食まで、十分に時間がある。
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