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「よし!
大浴場いくか!」
「…先輩!」
掘りごたつから出ようとした俺の右手を、楓が掴んだ。
「楓?」
俺を見つめる真剣な眼差し。
「先輩…。
俺の話…聞いて?」
その声と共に涙が一滴こぼれ落ちた。
「楓!」
その瞬間、夢中で楓を抱きしめていた。
楓が、目の前から消えてしまいそうな不安に駆られる。
「泣くな。
俺がいるから」
楓の耳元で囁いて、目元の涙に口づけると、楓は咳を切ったように泣き出した。
「う…ふ…」
嗚咽を堪えて、俺の胸に顔を押し付ける姿に、胸が締め付けられる。
「大丈夫だ…」
それしか言えない自分が歯がゆくて。
でもそれ以上に愛しくて、切なくて。
俺は楓が泣き止むまで、その華奢な背中を抱いていた。
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