2 復讐

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 高橋の実家は、とりわけ貧乏というわけでも無く、ごく一般的な核家族であった。両親は今も健在で、二つ下の妹もいる。  あれは四年生の夏休みだった。遊びから帰宅した高橋は、台所の冷蔵庫からジュースを取り出そうとして、何気無く床を見た。そこには一匹のゴキブリがいた。  小学生という年齢には珍しく、不思議と恐怖心といったものは感じなかった。感じたのは好奇心、それに黒光りするカブト虫のような昆虫に対する言いようのない魅力だった。  分別のつかない子供が、好奇心から蝶々に手を伸ばすのと同様に、高橋もゴキブリに手を伸ばした。ゴキブリは逃げることもなく、簡単に捕えることができた。  少年は、しげしげとゴキブリを見つめ、眺め、観察をした。  見るほどに魅力は高まっていき、惹かれていった。ゴキブリの足を握る。無邪気な少年の手は、いとも簡単にゴキブリの足を千切ることが出来た。
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