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ブチッ。
小気味の良い音とともに、ゴキブリの脚が糸を引きながら千切れた。少年の頭には、もはやジュースを飲むことなど残っていなかった。
夏の日射しに体液をぬらぬらと輝かせるその脚が、少年には何とも美しく見えた。片方の手でしっかりとゴキブリを握りながら、千切れた脚の匂いを嗅ぐ。大した匂いはしなかったが、口に入れると甘酸っぱい味が広がった。
脚を一本失いながら、必死に少年の手から逃れようとするゴキブリを、少年は見つめた。不衛生で害虫の象徴であるその生き物は、少年にとって甘美で魅力的な黒い果実となった。口に入れると広がる酸味。ほのかに甘い香りもした。
ある時、母親にゴキブリを食べる瞬間を見られたことがあった。凄まじい剣幕で怒られた少年は、決して食べる瞬間を見られてはいけないと学んだ。
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