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あれから十数年。成長した少年は、これまで捕食してきた生き物に、逆に食い潰されてしまった。
高橋の体内に巣食う黒い化け物は、まるで蛹が蝶へと羽化するように、外へ出ようと皮膚を突き破ろうとしていた。
すでに医者の手に負える状況では無い。ふいに喉に違和感を感じた高橋は咳き込んだ。一匹の小さなゴキブリが口から飛び出し、床に落ちた。ゴキブリはすぐに物陰に隠れ、見えなくなった。
腹部が小さく盛り上がり、虫のように蠢いた。あまりの激痛に高橋は気絶してしまった。
次の瞬間、ブチブチと筋肉が千切れ、腹部の中央辺りが張り裂けた。鮮血とともに、真っ赤に染まった数百匹の大小様々なゴキブリが、一斉に飛び出した。
わらわらと蜘蛛の子を散らすように拡散するゴキブリ。病院内は悲鳴と絶叫に包まれパニックになった。
外界に放たれた人喰いゴキブリは、すぐに人間の目に届かない場所へと隠れた。人の味を覚えたゴキブリは、再び集団で人間を襲うだろう。
診察台に横たわったままの高橋は、いつまでも虚空を見つめたままだった。食い荒らされ空洞化した腹から、出遅れたように一匹の巨大なゴキブリがのそのそと出てきた。赤黒いゴキブリの背中が妖しく光った。
――完
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