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同時に、高橋の手もゴキブリに負けないくらい素早く動いた。その慣れた手付きでゴキブリを捕らえ、親指と人差し指でゴキブリを挟む。ぬめりとした油のような感触がした。ゴキブリは足や触角を必死で動かし、どうにか高橋の指から逃げようとしていた。
高橋はゴキブリをじっと愛でるように見つめた。より一層激しくゴキブリは動いた。その動きは捕食者から逃れようとする獲物の動きだった。棘のある足が手に当たり、痛い。
高橋はクローゼットからポリバケツを取り出した。中からは何か虫のような物が動く音が聞こえる。ポリバケツを床に置くと、中に張り付いていた物がぼとぼとと落ちる音がした。
高橋はポリバケツの蓋を動かし、隙間を開けた。内部には数百ものゴキブリがいた。開ける際の衝撃で、蓋の裏面に張り付いていたゴキブリが何匹か落ちたようだ。黒光りする何百もの背中が蠢いている。ゴキブリのおかげで、ポリバケツの底や壁一面は真っ黒に染まっていた。
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