1 偏愛

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 フライパン上を踊るゴキブリの様は何度見ても滑稽である。物の数秒でゴキブリは絶命したので高橋は蓋を取った。水蒸気が香ばしい匂いと共に立ち上った。  高橋は菜箸を使ってゴキブリを手際よく炒めた。野菜を炒める時のような小気味良い音がする。焦げない程度に炒め終えると、底の浅い皿に盛り付けた。炒めたことで若干赤みがかかったゴキブリの体は、真っ白な皿に良く映えた。  ――おっと、忘れてた忘れてた。  高橋は独り言を呟き、ジューサーを取り出した。そして再びポリバケツから数匹のゴキブリを捕まえた。  ゴキブリと牛乳をジューサーに入れ、蓋をセットする。電源を入れると金属製の刃物が回転し、ゴキブリの体を粉微塵にした。純白色の牛乳はみるみるうちに黒茶色に染まっていった。  数秒ほどでゴキブリは粉々になり液体と同化した。高橋はジューサーを止め、やや粘性のあるゴキブリミルクをコップに注いだ。
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