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桜の木の下。
それを見上げるとざは、とても儚くて、このまま消えてしまいそうで、
居なくならないように、抱きしめた。
「…どうしたの?」
いきなり背後から抱きすくめられて、驚きながらも人より少し高めの体温を心地良く思いながら、戸澤は自分の背後の石田に話し掛けた。
「…いや、別に…」
言葉にいつもの張りがない。
'消えちまいそうだったから、'なんて言える筈もなく、適当に誤摩化しはしたが、離しはしなかった。
「…桜、」
「んー?」
「綺麗…だよな。」
「あぁ…そうだね。」
二人で同じ方向を見る。
はらり、と舞う桜の花びら。
それはそれは美しく、そして淋しげで、石田は腕の力を強める。
「さっきから…イッシーらしくないよ?」
「…だってよ、」
とざは、左手を俺の腕に添え、右手では桜の花びらをひとつ、掴んでいた。
「…いなくなっちまったら…嫌、だから…」
「え…?」
首だけ後ろを振り返ると、イッシーは僕から目を逸らせた。
顔、真っ赤…。
「…消えそうに、見えた?」
「……あぁ、」
「…そっか。」
しゃく、と石田の短髪をゆっくりと撫でる。
「大丈夫だよ、僕、一応男だし。」
「いや…そうだけどよ…」
栗色に近いふわふわの髪が風に揺れて、とざの匂いがする。
「…イッシー、口開けて、」
「あ?」
言われた通りに口を開けると、ぽい、と口に何かが入って来た。
それが何か確かめる前に唇をとざに塞がれた。
「ん…む?」
優しい香り。
「ぅあ、ちょ、イッ…シ、」
腕を離して頬を包んで、舌を突っ込んで来る。
それを押し退けられず、舌先を触れさせると、春の匂いがした。
「…桜、だろ」
「…うん。」
正面から強く抱く。
「…ここにいるよ。」
「…あぁ、」
「いなくなんか、ならないから。」
「…あぁ、」
「…安心した?」
「…あぁ、」
「泣かないでよ、」
「…うるせーな、」
そんくらい、好きなんだ。
「大切なんだよ…お前が。」
「…僕も、大切だよ。」
広い胸板に耳を付けて…
「…スッゴいドキドキいってる。」
「…うるせぇ。」
「…落ち着く。」
瞳を閉じれば、感じる。
君の命と、鼓動と、想い。
それと、恋の季節の訪れ。
END
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