黄色の鉛筆

2/6
前へ
/32ページ
次へ
『 秋 』   張り詰めた水面に浮かぶは、蒼き静月。 それは空気の色なのか、はたまた水の色なのか。闇にのまれぬように、月は青白く染まり輝き続ける。   微かに通り抜ける風に揺すり起こされ、ススキの合間から思い出したように虫たちが鳴き始める。 その音色は徐々に広がり、夜を彩っていく。 深く、穏やかに。柔らかな音が幾重にも重なりゆく。   ずいぶん時が過ぎてしまったな。そう実感できる程に、浴衣で過ごすには肌寒い風が吹き続けている。   風がどぅっと、駆け抜ける。 水面に小さな小波がたち、月を揺らした。 ゆっくりと広がっていく波紋に誘われるように、紅葉が一枚滑っていった。 なんて綺麗な夜なのだろう。  たまには縁側でこうしているのもいい。 そう思うと不意に笑みがこぼれてきた。   風が治まり再び鳴きはじめた虫の声に、そっと耳を傾けるのだった。
/32ページ

最初のコメントを投稿しよう!

11人が本棚に入れています
本棚に追加