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『 秋 』
張り詰めた水面に浮かぶは、蒼き静月。
それは空気の色なのか、はたまた水の色なのか。闇にのまれぬように、月は青白く染まり輝き続ける。
微かに通り抜ける風に揺すり起こされ、ススキの合間から思い出したように虫たちが鳴き始める。
その音色は徐々に広がり、夜を彩っていく。
深く、穏やかに。柔らかな音が幾重にも重なりゆく。
ずいぶん時が過ぎてしまったな。そう実感できる程に、浴衣で過ごすには肌寒い風が吹き続けている。
風がどぅっと、駆け抜ける。
水面に小さな小波がたち、月を揺らした。
ゆっくりと広がっていく波紋に誘われるように、紅葉が一枚滑っていった。
なんて綺麗な夜なのだろう。
たまには縁側でこうしているのもいい。
そう思うと不意に笑みがこぼれてきた。
風が治まり再び鳴きはじめた虫の声に、そっと耳を傾けるのだった。
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