黄色の鉛筆

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『生きる』   あたたかな気配に誘われて、ぐんぐん伸びるよ僕たちは。   早く会いたい、あの光に。 記憶の向こうに残る春の陽射を思い出し、急く気持ちを押さえ込みながら、真直ぐ天を目指し伸びていく。   もう少し。 もうすぐだよ。   近くにいる兄弟達の声がする。   それは突然訪れた。 力が抜ける感覚と一緒に、さわやかな春の風が疲れた体を撫でていく。   待ち焦がれた空。 待ち焦がれた春。   風に揺られるまま兄弟達も、そのマッチ棒のような体をゆらし笑っていた。   他の草花も笑っていた。 これが春なのだと。   この一時を楽しむために、僕らはここに居る。 もっと春を感じようと、精一杯背伸びして太陽に向かっていく。   それが僕らつくしの生き方なのだと胸をはって。 そして、また来年もこの地で春を迎えようと思うのだった。  
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