黄色の鉛筆

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『初夏』   一歩、また一歩。   賑やかな蝉達に追い立てられるように。重く痛む足を持ち上げ、下ろす。 タオルなど無意味に感じるほど、拭っても拭っても汗が溢れて来る。ときどき、背骨にそい流れ落ちるのが恨めしいほどだ。 救いなのは道が木々によって、木陰になっていることだろう。   微かに聞こえてきた水音に、自然と足が早まる。 一匹、また一匹と蝉の声が水音にのまれ溺れていく。   一歩、一歩と前えと歩を進める。   木々のトンネルを抜けた瞬間、爆音を轟かせるは白い天竜の滝。その力溢れる姿は、まるで命の流れ。 雄々しく猛々しく、そこに在るべき絶対なるもの。   足の痛みも全て忘れ、ただ無心に飛沫を浴びていた。 心が奪われるとは、こうゆうことを言うのだろう。   気がつくと汗は冷やされ、心地良い風が首をくすぐっていた。 ここまで上ってきた達成感と満足感に、ゆっくりと回れ右をする。   やっと僕の本当の夏休みが始まったのだ。  
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