黄色の鉛筆

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『宙の大地』    澄み切った天に、星々が輝く。欠けた蒼星が、煌々と佇む僕を見下ろしている。    この枯れた大地には、生命の欠片はない。それでも僕が生きているのは小さな戦艦の中に残る最後の土と緑のおかげだ。  僕はその両方を、一方的に摘み取りただ無駄に存在していた。  変わらない毎日。進まない時間。僕は此処に忘れられた。誰も助けに来ない。  ただ静かに死を待つだけなのだと、流されるままに。    そして今日も太陽が沈み、蒼星が昇る。胸の奥に風が吹き込む。  死した大地の夜は凍える。  寒さから現実から逃げるように、戦艦に戻った僕は言葉を失った。    ジジジジジジジジ……    弱くも懐かしいその声は、忘れかけていた故郷の日を思い出させる。夏休みの終わりを告げるように、虫取り網を手に森を走り回った日々を……  静かに思い出した故郷の姿に、失っていた生きる力が湧き上るのが感じられた。    それは、まだ柔らかそうな腹を必死に揺らし、その細い足で緑にしがみつき尊い命を燃やし鳴いていた。  たった一匹のセミに教わるなんて。言いようの無い涙が溢れる。    僕はまだ生きる。  いつか、この月から故郷に帰るために。
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