赤色の鉛筆

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『カウントダウン』   闇の中に静かに砂の落ちる音だけが広がる。 見上げた空からは、一筋の砂の糸が降り注ぎ道を阻むように身体を沈めていく。   終わらせない、終わらせるものか。 そう切に願いながら、僕は必死に手を伸ばした。 今にも閉じようとしている出口。 その小さな光に向かって、手を伸ばす。   あと少し、もう少しなんだ。 この砂が全て落ちる前に、この身が埋まる前に向こうへ。 光の向こうに君が居るから。 思いを受け取ったかのように、指先が僅かに光に触れた……       辺りが真っ白になっていく。 それはどこか温かく優しい光だった。       光の向こうから、規則正しい機械音が聞こえてくる。 僕はゆっくりと目を開いた。   「先生、意識が戻りました!」   少し甲高い女性の声と何人かの足音が聞こえた。 そして君の泣いている声。   やっと帰ってきたんだ。 全身に穏やかな安堵感が溢れてくる。 おぼろげな視界に、両目に涙を溢れさせた君の姿が見える。 僕はゆっくりと言葉を紡ぐ。   ――ただいま。   君が浮かべた笑顔の向こうで、砂時計の最後の砂が落ちた。
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