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『嘘』
どれだけ泣いたのだろうか?
忘れていた涙が、とめどなく溢れてくる。
私は私の殻に閉じこもるようにして、誰も寄せ付けずただ泣き続けた。
泣き続ける私に、フワリとマフラーが巻かれる。
その次の瞬間には、しっかりと力強い腕が包み込む。
優しく温かい腕が、涙も一緒に抱き締めてくれた。
「大丈夫だよ」
それは、不可能を可能にするアイツの言葉。
アイツがいつも私に言ってくれた、魔法の言葉。
それを今度はあなたが言う。
「君は、まだ亡くなった彼を見ていない。本当に彼は死んだのかい?」
私は小さく首を横に振る。 その言葉は微かに祈っていた、希望の姿。
「それなら大丈夫。きっと生きているよ」
静かに紡がれるそれは偽り。彼の優しさ、思い……
私は、彼の手に自分の手を重ねた。
真実など本当は分かっていたのだ。
でも、今だけは……
近寄ることすら許されない彼の葬式を見つめながら、私はその腕に身を預けた。
「うん……彼は生きてる。だから、待つよ……」
抱き締める腕にわずかに力がこもった。
残酷な台詞だと分かっている。でも、心にはアイツしか居なかった。
「大丈夫……彼が戻るまで君の隣りには僕がいるから」
そう言って、あなたは静かに口付けをした。
ごめんなさい。
優しい、優しいあなた……
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